2012/11/15

授業で学校を創る(2)

 ~高等学校だから「できる」授業~

 こんな風景を高校の授業で見ることが出来るのか!?

 こんな自問は9月25日の当ブログでも触れているが、『高校生』という対象集団気質への固定概念が今回の授業でも見事に崩されてしまった。二度目の訪問であったので正しく「ダメ押し」であった。

 全日制の授業は①「福祉科・基礎介護4」(2~3年次履修選択者)と②「数学科・数学1データの分析」(1年次3~4組27人)であった。定時制の授業は「英語」であった。高校生への固定概念(=無気力極まらない授業姿勢)で教場に向かう役職にとっては足取りが鈍るのは人情か?3つの授業観察に共通した感想は、一歩踏み込んで『現代高校生気質』への思い込みが誤解であることが判明したことである。以下に3つの授業観察と所感を記述する。

【福祉科】 「立ち上がりのメカニズムを理解した立位・移動の援助」が本時の目標であったが、小グループで真剣に工夫する全ての生徒の姿勢に感心することを恥ずかしく思うほどの熱気だった。教員の指導力も申し分ない。その教師の指導力を更にアップさせる高校生集団の積極的な学習態度には、前回にも増す「驚き」でしかなかった。私事ではあるが、60歳近くになって必要に迫られて(=義母の介護体験)、この単元の必要性を思い出した。従ってすこぶる私的な視線で見入ったのは事実である。「振り返りカード」も読ませてもらった。「これって、高校生?」と訝しがるほどの丁寧な書き込みを見て驚嘆度も頂点に昇ってしまった。

【数学科】 「批判的精神を働かせ、仲間の意見を参考にしながらよりよい判断方法を創り上げる」を本時の目標に掲げている指導案に目を通しただけで「こりゃぁ、ムリ」との先決を下しかねないのが、現代高校生気質を熟知(?)している者の常識的な尺度ではないだろうか。指導者の発問や指名手法に、高校生が対応しない場面も幾つかはあった。しかし、小グループになって学習する生徒たちは他のグループの発表を真剣に聞き取りながら、話し合いを展開する。居眠りや身勝手な言動等の授業離脱風景は全くない。圧巻は終わりのチャイムが鳴る寸前の男子生徒の自主的な発言(つぶやき)だった。危惧したのは指導者の感性が欠落しているような対応だった。数学的思考力を養成するために教員に替わって話題提供するような内容であった。それに指導者が食いついてくれた。照れる発表者をついにホワイトボードまで引きずり出して男子生徒の持つ「数学的な視点」からの考え方を述べさせることが出来たのである。指導者の人柄を生徒たちが活かして授業を創っている光景は、今まで参観したことが無かった。高校生だからできる「授業づくり」への期待が膨らんだ嬉しい誤算でもあった。

【定時制】 小生の専門分野でもある「英語」の公開授業であった。教員として最後に定時制高校に進学させた卒業生を思い出した。本時の目標が「日本文化を英語でプレゼンテーションをする」ことで、興味関心・表現能力・知識理解にせまる設定である。指導案を一瞥して「2~3人がプレゼンできれば十分」と勝手な判断をして教場に足を運んだ。チャイムはまだ鳴っていない。指導者らしい男性教諭に質問している茶髪の女子生徒を発見して、始業前で、想定が外れてしまった。廊下にいる自校の教員らしい人物にも「これ、どう読むの?」と食い下がっていた男子生徒が、一番に指名されプレゼンのために黒板前に向かう。聞いてくれる相手は外国人講師であった。「2~3人いれば」、との想定をした自らの「定時制で学習する生徒」への固定概念が見事に崩されてしまった。結局、全員が時間内にプレゼンを完了した。しかも、級友が発表している時の聞く態度も非の打ちどころがないのが悔しいではないか(笑)。指導者は自信喪失の傾向があると観察した。しかし、「先生、これで良いの?」「先生、この単語が読めない!」と指導者と頻繁にコンタクトをとる生徒たちの態度に、もしかして定時制高校入学者は「中学校教育における人間関係崩壊」の犠牲者であった」のではないかと胸が痛くなる程だった。指導者の人間性の温もりを感じ取れるのも「高校生だからこそ」できる授業だと感服した。

最後に、本校への2回だけの授業観察ではあったが「得をした」のが小生本人であることだけはお伝えしたい。素晴らしい高校生と出会う機会を与えて戴いた関係者に厚く感謝の意を述べたい。

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自己紹介

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1944年熊本県八代市生まれ。1968年から神奈川県内の高校、中学校の英語教員として勤務。1988年より神奈川県茅ヶ崎市で指導主事、教育研究所長、中学校教頭、指導課長、小学校校長、指導担当参事を務める。1996年8月ちがさき教育実践ゼミナール『響の会』(現・教育実践『響の会』))を開設し、教員の自主研修会として活動を主宰。 2001年に新設開校の茅ヶ崎市立緑が浜小学校・初代校長着任。 2004年3月退職後は「教育実践・響の会」会長として全国で講演活動中。『響の会』は茅ヶ崎市・浜松市・広島市・東京都立川市に開設。2006年9月より2011年8月まで、日本公文教育研究会子育て支援センター顧問として全国で指導助言に務める。著書に 『あせらない あわてない あきらめない』(教育出版)、『人は人によりて人になる』(MOKU出版)、『小学校英語活動教本JUNIOR COLUMBUS』(光村図書出版)がある。その他月刊誌等の執筆原稿や共同執筆書も多数あり。近刊は、2012年10月発行予定(『校長先生が困ったとき開く本』教育開発研究所)。

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