2011/08/03

「人生の進路を決める」とは??

 ~傲慢だった職業意識を悔いる~
 中学校の教員生活が長かった自らの言動を振り返ると、「時として」恥じ入る気分になることがある。一介の若輩が、「教員」という職業に就いてしまうと周囲の空気にも後押しされて自分という人間性すらも忘れてしまうらしい(小生だけだったかも知れない)。
 ここ数日間で、数件の「進学」についての相談が電話や手紙やメールで重なって届いた。
 中学校や高校では「進路相談・進路指導」というカテゴリーで主任も位置づけられ学校教育の重要業務の一つとなっている。「一人の人生を左右する」とまで言及され、最終学年の担当者は針の莚に居る気分にまで追い込まれてしまう。親からも本人からも「恨まれてしまう」ような究極に陥ることにもなるので神経の摩耗も凄かった。
 こうして、本務から解放され毎日をのんびりした人生に「乗り換える」と、見えなかったモノが見えてくる。そうすると当時のわが身が滑稽に見えてきて、少々同情したくもなってくる(笑)。それは、一人の中学生の「今後の進路」を「決めてあげる」という傲慢さが見え隠れするからである。一方では、「三者面談」という言葉を、相談者の表現から受け止めてみると過去の罪深き我が言動に居た堪れなくなってしまう。指導力不足教員としての懺悔でもある。
 進路を決める?
 人生の将来は誰にも予測できない筈なのに、手元にある資料(学業成績等々)を最優先させ、時にはそれを「錦の御旗」の如くチラつかせ、「教員」としての責任を果たすかのような錯覚で親子を前にして、進学高校の選定を誘導した。受験もしていないのに「不合格を予測して」の受験校を変更させて「進路を決定」したと思い込んでいた過ちに、今となっては当事者には謝りようがない。
 また、時には、親のエゴともぶつかった。
 親の意向で進学高校や進学大学を決定していたケースもあったことが思い出す。親を説得することで進路指導と思い込んだ未熟教師は孤軍奮闘したが、所詮、若輩教師に勝ち目はなかった。そんな教員に担任をされた卒業生たちには哀しい人生を進めてしまったのかも知れない。
 今回の相談でも、やっぱり聞いただけでも悩んでしまう。
 それは、人生が残りの時間が今まで生きて来た時間より少なってしまっている現在を噛みしめる年齢になっているからである。つまり、10代の「将来」観と、70歳に近い人間の「将来」観のギャップではないだろうか。なるようにしかならない!という捨て鉢の人生観ではない。高校を選ぶための凄まじいエネルギーの消耗より、高校に入学してからのエネルギーの燃焼が期待できる方を選べるための助言が必要だったと述懐している。A高校を第1志望にしていた生徒に、「説得して(?)」B高校を受験させた罪は、小生の心の中で永久に生き続けることになる。まるで人生が終わってしまったかのように落胆して親子で三者面談の部屋から帰って行ったあの後姿が決して脳裏から消え去らないからである。今頃、進路指導という大義名分での小生の被害者たち(多くは40~50代の人生)は、どんな人生を歩んでいるのだろうか。
 退職した今でも、親となった卒業生たちからの「進路相談」を受けながら、ふと、立ち止まってしまうほどに重い案件である。中学生では「自分の進路」を決めることなど出来るわけがない。となると、その周囲の大人の責任は大きくなる。親と教師が、大人としての力量で、子供の現状を分析しつつ将来への期待を賭けに換えてでも「夢と希望」を抱かせて、次のステージに上げなければいけない。
 自らの反省だけを基盤にしての無責任な思考ではあるが、読者の中には中・高校の指導者も多いと思われるので恥じつつ今の心境を綴ってみた。
 ひんやりとした風が心身を引き締めてくれている朝である。

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自己紹介

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1944年熊本県八代市生まれ。1968年から神奈川県内の高校、中学校の英語教員として勤務。1988年より神奈川県茅ヶ崎市で指導主事、教育研究所長、中学校教頭、指導課長、小学校校長、指導担当参事を務める。1996年8月ちがさき教育実践ゼミナール『響の会』(現・教育実践『響の会』))を開設し、教員の自主研修会として活動を主宰。 2001年に新設開校の茅ヶ崎市立緑が浜小学校・初代校長着任。 2004年3月退職後は「教育実践・響の会」会長として全国で講演活動中。『響の会』は茅ヶ崎市・浜松市・広島市・東京都立川市に開設。2006年9月より2011年8月まで、日本公文教育研究会子育て支援センター顧問として全国で指導助言に務める。著書に 『あせらない あわてない あきらめない』(教育出版)、『人は人によりて人になる』(MOKU出版)、『小学校英語活動教本JUNIOR COLUMBUS』(光村図書出版)がある。その他月刊誌等の執筆原稿や共同執筆書も多数あり。近刊は、2012年10月発行予定(『校長先生が困ったとき開く本』教育開発研究所)。

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