~初めて借りて読んだ本~
それが、下村湖人作『次郎物語 (上)(下)巻』であった。
小学校入学は分校だった。本校まで4キロ以上ある僻地に生まれたようだ。誇りある分校第1回生であった。ピカピカの新校舎と言えば聞こえは良いが、2教室と小さな職員室だけの平屋であった。しかし、運動場はあった。子どもの頃は「運動が嫌い」だったので遊具での苦い思い出はあっても楽しかった遊びはない。
3年生から本校に通った。
本校は別世界だった。視る物すべてが初めて尽くし。中でも広い講堂(体育館はなかった)には恐怖感があった。雨天でも体育の授業ができるとは信じられなかった。しかし、何と言っても衝撃だったのは『図書館』だった。
5年生になって学校図書館で初めての授業を受けた。本の借り方・返し方の指導もあった。担任の先生が「今日から本を借りて帰って良いぞ」と発せられ、恐る恐る書棚から「選んでいた」本を取り出してカウンターに移動した。
借りた本が、小生を「本の虫」としての一生を決定づけた。
11歳の少年の夢の実現は還暦を迎える時代まで送りやられてしまっていた。「著者ゆかりの地」を踏んでみたいとの夢を描いて上京したのだった。東京学芸大学(東京都小金井市)を公務で訪れた折に大願成就が出来た。初めて借りて読んだ本が執筆された(と言われていた)場所を訪問することができたのである。還暦に至る老脳にも「若き日の熱き炎」は、まだ燃えていたことが嬉しかった。
2月24日のネット記事でそれを知って愕然とした。もう一度、今度は孫達でも連れて訪れようと心ひそかに考えていただけに衝撃であった。孫が小学校5年生である。「お祖父ちゃんの小学生時代を語る」腹積もりも空しく、記事と一緒に焼失してしまった。
「後で・・・」「これが済んだら・・・」と先送りは出来るだけ避けたい、と落胆した。「空林荘」の中も拝見できたのに、帰りの時間を気にしての先送りをしてしまったことが今となっては悔しい。人の「人生を変える」本を執筆されたという庵の中に入って見たかった!!
喩が適切ではないことは許されたい。
少々未練がましく、去って行った恋人でも負うような気分になってしまった。久しぶりに「読書少年」に戻った瞬間だった。
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