~タイムマシンに乗って20年前に~
中学校の職員室。「朝の職員打ち合わせ」から登場する校長のデザインで訪問日程が始まる。この光景は??僅か1年間しか勤務しなかった中学校における教頭職時代の「朝の空気」である。規模は訪問校の方が若干大きいが形式は相似している。走馬灯には20年前の教頭職時代の苦悩が巡っていた。
訪問校の校長からは朝の打ち合わせの時間で「3分かスピーチ」を要求されていた。駄弁をすると時間が不安定になるので、本校では初公開になる資料として持参した書物の一部を朗読して任を果たすことにした。
たとえば、あなたがラブレターを書くとき、「あなたのことが好きで好きでたまらない」というように自分の思いを感情にまかせて綴った手紙を送ったとします。このような手紙をもらって喜んでくれるのは、最初からこちらのことを好きだと思ってくれている相手だけでしょう。好きでも嫌いでもない人からこのような手紙をもらったら、たいていの人はむしろ「やたらと押しつけがましくてかなわない」といった悪い印象を持つのではないでしょうか。
もしもこのとき、相手が自分でも一番好ましいと思っている部分やいいと思っているところを評価し、その上で「あなたのそういうところが好きです」というふうに書いたとします。もちろん、それだけで相手もあなたのことを好きになってくれるとはかぎりません。しかし、自分の良いところを見てくれていることがわかれば、少なくとも相手はそのラブレターの文面は好意的に受け入れてくれるでしょう。少なくとも前者の例よりも、うまくいく可能性ははるかに高いでしょう。
もちろん私はここで、ラブレターの書き方を教えましょうというつもりはありません(そんな柄でもありませんし)。いまの話を通じて言いたかったのは、技術を伝えるときにせよ、自分の意思や感情を相手に伝えるときにせよ、大切なことはまったく同じだということです。つまり、相手が受け取ってくれない形のままで伝えることをいくらやってもダメで、どんな場合、自分の伝えようとする中身を相手が受け取ってくれる形に再構築しないことには絶対に伝わらないのです。
そして、そのためには、「相手の立場になって考える」「相手から見える景色を想像する」ということが大切なのです。
繰り返しになりますが、私が本書で示した考え方や方法論は、技術の伝達だけでなくいろいろな伝達の場面で使うことができます。
何かを伝えることで、相手と豊かなもの、温かいものを共有することができればそれは素晴らしいことだと思います。本書に示したエッセンスが、そのささやかな助けになれば筆者として非常にうれしいことです。 2006年12月『技術の伝え方』著者 畑村洋太郎
今後、機会を選んで今回(2月10日まで)の講演・旅日記としてアップすることを考えているのでご期待ください。
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