2013/02/06

久しぶりの爽やかな緊張感

 ~タイムマシンに乗って20年前に~

 中学校の職員室。「朝の職員打ち合わせ」から登場する校長のデザインで訪問日程が始まる。この光景は??僅か1年間しか勤務しなかった中学校における教頭職時代の「朝の空気」である。規模は訪問校の方が若干大きいが形式は相似している。走馬灯には20年前の教頭職時代の苦悩が巡っていた。

 訪問校の校長からは朝の打ち合わせの時間で「3分かスピーチ」を要求されていた。駄弁をすると時間が不安定になるので、本校では初公開になる資料として持参した書物の一部を朗読して任を果たすことにした。
 

 たとえば、あなたがラブレターを書くとき、「あなたのことが好きで好きでたまらない」というように自分の思いを感情にまかせて綴った手紙を送ったとします。このような手紙をもらって喜んでくれるのは、最初からこちらのことを好きだと思ってくれている相手だけでしょう。好きでも嫌いでもない人からこのような手紙をもらったら、たいていの人はむしろ「やたらと押しつけがましくてかなわない」といった悪い印象を持つのではないでしょうか。

 もしもこのとき、相手が自分でも一番好ましいと思っている部分やいいと思っているところを評価し、その上で「あなたのそういうところが好きです」というふうに書いたとします。もちろん、それだけで相手もあなたのことを好きになってくれるとはかぎりません。しかし、自分の良いところを見てくれていることがわかれば、少なくとも相手はそのラブレターの文面は好意的に受け入れてくれるでしょう。少なくとも前者の例よりも、うまくいく可能性ははるかに高いでしょう。

 もちろん私はここで、ラブレターの書き方を教えましょうというつもりはありません(そんな柄でもありませんし)。いまの話を通じて言いたかったのは、技術を伝えるときにせよ、自分の意思や感情を相手に伝えるときにせよ、大切なことはまったく同じだということです。つまり、相手が受け取ってくれない形のままで伝えることをいくらやってもダメで、どんな場合、自分の伝えようとする中身を相手が受け取ってくれる形に再構築しないことには絶対に伝わらないのです。

 そして、そのためには、「相手の立場になって考える」「相手から見える景色を想像する」ということが大切なのです。

 繰り返しになりますが、私が本書で示した考え方や方法論は、技術の伝達だけでなくいろいろな伝達の場面で使うことができます。

 何かを伝えることで、相手と豊かなもの、温かいものを共有することができればそれは素晴らしいことだと思います。本書に示したエッセンスが、そのささやかな助けになれば筆者として非常にうれしいことです。    2006年12月『技術の伝え方』著者 畑村洋太郎

  この本文を朗読している写真が、訪問校(愛知県小牧市立小牧中学校)のホームページに掲載されているのでご参照いただきたい。


 今後、機会を選んで今回(2月10日まで)の講演・旅日記としてアップすることを考えているのでご期待ください。

0 件のコメント:

コメントを投稿

自己紹介

自分の写真
1944年熊本県八代市生まれ。1968年から神奈川県内の高校、中学校の英語教員として勤務。1988年より神奈川県茅ヶ崎市で指導主事、教育研究所長、中学校教頭、指導課長、小学校校長、指導担当参事を務める。1996年8月ちがさき教育実践ゼミナール『響の会』(現・教育実践『響の会』))を開設し、教員の自主研修会として活動を主宰。 2001年に新設開校の茅ヶ崎市立緑が浜小学校・初代校長着任。 2004年3月退職後は「教育実践・響の会」会長として全国で講演活動中。『響の会』は茅ヶ崎市・浜松市・広島市・東京都立川市に開設。2006年9月より2011年8月まで、日本公文教育研究会子育て支援センター顧問として全国で指導助言に務める。著書に 『あせらない あわてない あきらめない』(教育出版)、『人は人によりて人になる』(MOKU出版)、『小学校英語活動教本JUNIOR COLUMBUS』(光村図書出版)がある。その他月刊誌等の執筆原稿や共同執筆書も多数あり。近刊は、2012年10月発行予定(『校長先生が困ったとき開く本』教育開発研究所)。

フォロワー