2013/11/19

「紙上・読書会」を企画してみました。ご参加ください!!


 新聞記事の中から発見したコラムです。「読書する」分量には不足ですが、一読してみていただけませんか?先日、他界された天野祐吉氏の遺作です。世相と時代の変遷ぶりを振り返ってみるのに好材料として選択しました。

 お願い:感想は小生のアドレス宛 chts415@jcom.home.ne.jpにお届けください。無計画ではありますが、当ブログにてご紹介したいと考えています。

 

ブログ「紙上・読書会」(1)

「年代ごとに振り返る天野祐吉さんのCMコラム」より

2013年(平成25)11月18日(朝日新聞)

≪1990年代≫

父帰る?
 
 「父帰る」と言っても、菊池寛の話ではない。近ごろ、不況のあおりで、お父さんたちが早く家に帰るようになったという話である。

 あれって、ホントかなアと、相変わらず帰らないお父さんであるぼくは思う。行き場がないから家に帰るなんて、ぼくならそんなときは意地でも早く帰るまいと思うけれど、新聞やテレビを見ていると、みんな素直に家に帰っているらしいのだ。

 で、「父帰る」の第二章は。

 「なべ売れる」とつづく。これもぼくには信じられないのだが、土なべがやたらに売れているという。お父さんが早く帰ってくるようになって、夕飯は一家そろってなべ料理という家庭がふえたんだそうな。べつにアジの塩焼きでも焼き肉でもいいんじゃないかと思うけれど、久しぶりに帰ってきた家庭だんらんのイメージには、湯気の立つヌクヌクのなべ料理が似合うんだろう。

 となると、もう第三章はきまっている。「父帰る」 「なべ売れる」とくれば、人情としても次は 「妻よろこぶ」の番である。が。

 「父帰る」と「なべ売れる」まではマスコミでさかんに言われているけれど、「妻よろこぶ」という話は朝日新聞にも出ていない。それどころか、世間の奥さんたちの間では、「父帰る」 「なべ売れる」の次の章は「妻困る」じゃないかという声がささやかれているそうだ。

 さっき見た東京ガスのCMでも、早く帰ってきた夫が「ただいま」と玄関のドアをあけると、奥のキッチンでは妻がのうのうと電話をかけていて、電話の相手に 「あら、帰ってきちゃった」なんて、言っていた。ま、早く帰ってくるのがメイワクとまでは言わないけれど、いまや妻には妻の生活スタイル(夫ぬき)ができあがっていて、不況だからといって急に早く帰ってこられたりするのは、やっぱり「困る」んじゃないだろうか、とぼくは思う。

 念のために言っておくが、ぼくは日本の家庭にあたたかいぬくもりが帰ってくることに反対しているわけではない。不況もそういうことで役に立つなら、けっこうなことだと思っている。が、家族や家庭の再生というのは、そんなカンタンなものではないだろう。早く帰ってくるだけではなくて、男たちの意識が根っこのところから変わっていかないかぎり、何も生まれてはこないんじゃないだろうか。「父帰る」より「父変える」のほうが、ずっと大切なんだと思う。

 そこは変わらぬまま、なまじっか男が早く帰ったりすると、それだけ顔を合わせている時聞か長くなって、また「亭主元気で留守がいい」の大合唱が起こるんじゃないかね。        =1993年3月6日 記事=

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自己紹介

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1944年熊本県八代市生まれ。1968年から神奈川県内の高校、中学校の英語教員として勤務。1988年より神奈川県茅ヶ崎市で指導主事、教育研究所長、中学校教頭、指導課長、小学校校長、指導担当参事を務める。1996年8月ちがさき教育実践ゼミナール『響の会』(現・教育実践『響の会』))を開設し、教員の自主研修会として活動を主宰。 2001年に新設開校の茅ヶ崎市立緑が浜小学校・初代校長着任。 2004年3月退職後は「教育実践・響の会」会長として全国で講演活動中。『響の会』は茅ヶ崎市・浜松市・広島市・東京都立川市に開設。2006年9月より2011年8月まで、日本公文教育研究会子育て支援センター顧問として全国で指導助言に務める。著書に 『あせらない あわてない あきらめない』(教育出版)、『人は人によりて人になる』(MOKU出版)、『小学校英語活動教本JUNIOR COLUMBUS』(光村図書出版)がある。その他月刊誌等の執筆原稿や共同執筆書も多数あり。近刊は、2012年10月発行予定(『校長先生が困ったとき開く本』教育開発研究所)。

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