2010/07/31

この夏の読書は進んでいますか?

  ~こんなに便利になってしまって~
 『本』と言えば、なぜか少年時代の思い出が浮かんでくる。
 それも、苦い思い出であるから思い出したくない筈なのにくっきりと背景の景色も出てくるが皮肉なモノである。西日の射す縁側。夕陽に赤く染まっている雲仙岳が美しい。4歳年上の兄(当時5年生)の国語の教科書を隠れて読んでいた。祖母が呼んでいる声が聞こえた。丁度面白いところだったので無視した。数分後に見つかってしまって叱られた。「聞こえていて聞こえないふりをしているとホントに聞こえなくなるぞ」と、いつもの叱咤だった。読んでいたのは「豊田佐吉物語」であった。
 5年生になって再びそのストーリーに触れて、再び感動。その時は縁側で隠れて読んだ懐かしさなどはなかったが、今となると懐古になる。祖母は「男の子が本を読む」ことを極端に嫌っていた。男の子は外でチャンバラ(=時代劇ごっこ)するモノだと決めつけていたから、それにそぐわない孫は天敵のように四六時中注視されていた。少年時代の小生は外で遊ぶより家の中で本を読んでいるか絵を描いているか。祖母が嫌ったのも頷ける。
 PTAや公民館主催の講演ではこのことに良く触れる。「子育て」というジャンルで講演依頼を受けると、自らの「子育ち」ぶりを公開することにしている。つまり「角田 明物語」を披露する事にしている。小生の現代版をご存じの方なら「うっそ-!」「ホントに?」と首を傾げること請け合いである。なぜなら、元気・明朗・闊達・・・(自分で言うか?!)と、この種の代名詞に代表されるような性格であり人生闊歩の現実をご存じだからである。幼少の「育ち」がそのまま延長することばかりではない。大勢の人と出会いながら刺激を貰い、考え、自らを成長させていくモノであることを説きたいのである。
 中学校を卒業すると有名進学高校に入学した。その学校の何が一番誇れたか?
 それは城址を見下ろす立派な図書館・閲覧室があったことだろうか。苦手でイヤな教員だった物理の授業は良くサボった。行き先は閲覧室。司書の女性の方は苦笑いしながらも一回も注意されないどころか担当教官への密告(笑)すら無かったのは幸運至極。その上にそこには溢れるほどの本と言う強い味方に囲まれていたので大船に乗った(笑)時間でもあった。教科書以外の本を買うことなど全く不可能な家庭に育った少年にとっては『天国の間』であったことは間違いない。ただ、本を借りて帰ったことは一回もない。
 そんな少年が働き始めて自分のお金で「本が買える」ことを知ったときの反動は凄かった(?)。大学生時代は、教科書を盗み読みされていた兄と同居だったが教壇に立った時点では独り住まいのアパートに移っていた。結婚して近くに住んでいた兄が時々訪れる度に言った台詞は「本に潰されて死ぬぞ」だった。4畳半一間の部屋は足の踏み場が無いほどに本だらけ。壁が見えないほどに積んでいた。
 教員時代は、市内の本屋さんに注文しておけば職員室に本を届けて貰えた。1ヶ月締めで請求書が届く。「えっ、これ全部本代?」と、隣席の女性教師が素っ頓狂な声を出したのは語りぐさ。払えない月は加算されてボーナス支給日に新たに請求書が机上に置かれた。
 結婚してもこの悪癖(笑)は続いたが、幸せなことに妻が一度たりと「本代の金額」に不平や不満の言葉を発してくれなかったことである。何と言ってもこの事は有難いことであった。
 そして、世の中は便利になった。便利すぎるほど便利になってしまった。
 パソコンで本を注文する。数日後には手元に届く。妻は相も変わらず本狂いの夫が注文した本が(妻には)前触れも無く「着払い」で届く連日でも決して不平を口にしない。夫はこれでも気遣いながら注文しているつもりだがこの病気には特効薬も効かないようだ(笑)。
 小生のHPには、管理人さんからの要望で「教員対象」を意識した本紹介コーナーが特設【イチオシBOOKS】され、毎月1日にアップされ続けている。
 長々と「本と私」ストーリーになりましたが、そのイチオシBOOKSには掲載しない類の本を同世代(範囲はご自分でご判断!)の、最近の2冊をブログ読者にご紹介しましょう。
 外山滋比古 著  「人生二毛作」のすすめ  飛鳥新社 
 大島龍穏  著   定年出家        小学館

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自己紹介

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1944年熊本県八代市生まれ。1968年から神奈川県内の高校、中学校の英語教員として勤務。1988年より神奈川県茅ヶ崎市で指導主事、教育研究所長、中学校教頭、指導課長、小学校校長、指導担当参事を務める。1996年8月ちがさき教育実践ゼミナール『響の会』(現・教育実践『響の会』))を開設し、教員の自主研修会として活動を主宰。 2001年に新設開校の茅ヶ崎市立緑が浜小学校・初代校長着任。 2004年3月退職後は「教育実践・響の会」会長として全国で講演活動中。『響の会』は茅ヶ崎市・浜松市・広島市・東京都立川市に開設。2006年9月より2011年8月まで、日本公文教育研究会子育て支援センター顧問として全国で指導助言に務める。著書に 『あせらない あわてない あきらめない』(教育出版)、『人は人によりて人になる』(MOKU出版)、『小学校英語活動教本JUNIOR COLUMBUS』(光村図書出版)がある。その他月刊誌等の執筆原稿や共同執筆書も多数あり。近刊は、2012年10月発行予定(『校長先生が困ったとき開く本』教育開発研究所)。

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